Movie Cycle Diaries

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<<   作成日時 : 2006/02/10 21:40   >>

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監督/
スティーヴン・スピルバーグ
  
脚本/
エリック・ロス
トニー・クシュナー
   
原作/
ジョージ・ジョナス  

製作/
スティーヴン・スピルバーグ
キャスリーン・ケネディ
コリン・ウィルソン

撮影/
ヤヌシュ・カミンスキ

編集/
マイケル・カーン

美術/
リック・カーター  

衣装/
ジョアナ・ジョンストン  

メイク/
ビル・コルソー


出演/
エリック・バナ
ダニエル・クレイグ
ジェフリー・ラッシュ
キアラン・ハインズ
マチュー・カソヴィッツ
ハンス・ジシュラー

マチュー・アルマリック
ミシェル・ロンズデイル
アエレット・ゾーラー
ギラ・マルマゴール
リン・コーエン
マリー・ジョゼ=クローズ
オメール・メトウォリー


(2005年/アメリカ/2時間44分)  



  復讐 −Vengeance− 

 というのがこの映画の元のタイトルだった。流石にストレートすぎて刺激的だということで『ミュンヘン』になったのか、イスラエルの人々を欺くための仮題だったのか…。 ミュンヘン五輪のイスラエル人人質殺害事件はこの物語のきかっけ。冒頭にあるに過ぎない。その後の展開にミュンヘンは一切関係ない。 やはり『復讐』が相応しい気がする。
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 復讐の連鎖  …世界中でもイスラエルとパレスチナほどこの言葉があてはまる地は他にない。オスロでのラビンとアラファトの握手は当時の大ニュースだったが…10年後の今は双方とも好戦派が権力を握り、情勢は悪くなる一方だ。一体何故?永遠に続くのか? 太古から世界にはこういう戦いが続く事例は多々ある。しかし、この文明社会においてここまで妥協策がないものなのか。やはり戦争は世界から無くなるものではないのだ、と改めて思う。



  スピルバーグ  
 
 この映画でスピルバーグがとるスタンスは、予想通りイスラエルに寄ったものではない。彼はユダヤ人であるが、その個人的アイデンティティーや感情で映画を歪めるほど愚かではないというのは重々承知している。ただ、それ故にお行儀の良いスタンス(彼は政治的にはそんなスタンスが多い。民主党を支持し、イラク攻撃を消極的に賛成する、といった感じ)をこの作品でも取るだろうという先入観は私の中に確かにあった。
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 しかーし、映画を観てみるとスピルバーグは更に一歩足を踏み進めていた。決してお行儀の良い位置で座り、オスカーが降ってくるのを期待した作品ではなかった。 スピルバーグは主人公にイスラエルから去らせる。原作通りと言えばそうなんだが、スピルバーグ自身の父祖の地イスラエルへの詰問状ととれなくもない。 

 実際、イスラエルでこの映画は激しい非難を受けている。「テロとイスラエルの報復を同一視するのか」と言った論調で。米国内の保守派or親シオニスト評論家連中からも同じく攻撃を受けている。受けても仕方ない。実際この映画を見ているとスピルバーグがパレスチナ側に同情的なのでは?と思わせるシーンもある。PLOの青年が祖国への思いを語るシーンなどは「彼らを美化してる」という指摘される可能性が十分ある。また、主人公は祖国の命令よりも情報屋のアナーキスト(?)一家への義理を優先させるシーンなども「裏切り」と見られかねない。
 勿論、スピルバーグの視点がどっちに寄っているということはない。この映画に関してはかなり公平な視点だ。 
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 公平ということはイスラエルべったりの映画だと思っていた親イスラエル親シオニズムの人々の失望は大きいはず。 主人公アヴナーの母親役のイスラエル人女優ギラ・マルマゴールは公開前にこの作品を「イスラエル寄りの視点で描いた映画」と公言していたそうな。映画を見て驚いたろう。それも仕方ない。俳優は出演シーンの脚本しか渡されなかったのだから。スピルバーグならずともよく使う手法だが、この映画に関しては意図通りに映画を撮り切るには必要なことであったろう。  

 今までの映画では(実生活での立場もだが)スピルバーグは「良い子ちゃん」であった。シリアスな題材を選ぶときの非難の対象というのは、誰もが異を唱えない万国の敵であった。ホロコースト、奴隷売買、人種差別……誰でもその怒りを受け入れられる水戸黄門の印籠のような題材ばかりだ。 
 
 しかし、この『ミュンヘン』でスピルバーグは「良い子ちゃん」から一歩前に足を踏み出した。ハリウッッド・リベラル的視点では支持される観点とは言え、親イスラエルが承服する内容でないのは百も承知であったろう。他の国ならともかく、あえて自民族の国の非難を覚悟でこの映画を世に出したスピルバーグの勇気を私は敬意を払いたい。

 
 勿論、そんな勇気があっても映画が凡庸では話にならないところだ。しかし、スピルバーグはディレクティングでもこの作品で一歩前に出ている。更に演出の格を上げている。彼自身の確立した演出カラーをスキなく出し切っている。撮影も編集も音響もフルに使って恐怖を、笑いを、興奮を見せつける。凄い仕事だ。スピルバーグの演出にここまで感服したのは『シンドラーのリスト』のアーモン・ゲートの人物描写以来。あの映画はスピルバーグのドラマ演出力を初めて見せつけたが、感傷的で物欲しげな気配は確かにあった。今回はそういうスキは一切見せない。
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 サスペンス演出は流石に秀でている。 タイミングを巡るスリラー(ドキドキ感)は流石は『JAWS』の監督!だし、手持ちカメラによるライブ感や、ミルクとワインと血を混ぜたりする視覚的な効果などの折り込み方は本当に巧い。 
 しかし、何より感心したのはジョークの折り込み。こんな重い題材でもジョークを織り込もうとするその姿勢に恐れ入った! 傲岸で几帳面な会計担当の「領収書もらえよ!」をアヴナーが情報屋との折衝で本当に実行しているのには思わずフいてしまった。そんなウラ稼業聞いたこと無い! …けど、そういうのがリアルなんでしょうな。 他にもブラックなジョークは多々織り込まれている。そういうスピルバーグの笑えない茶目っ気は大いに評価したい。


 一方で「ミュンヘン五輪事件」は当然シリアスなタッチで再現をしている。私はてっきり『プライベート・ライアン』と同じ手法を取ると思っていた。つまり、冒頭にリアルな再現劇を観客の頭にたたき込む手法だ。単純に考えれば、テロへの怒りを観客は共有でき、主人公を心情的に応援しやすくなる(あとで覆されるにしてもだ)。安易に考えれば最良の手法に思われる。
 でも、スピルバーグはそう単純な手法は取らなかった。思えば『ライアン』の冒頭のノルマンディ上陸は誰もが絶賛(あるいは嘔吐)したシーンであるが、私は圧倒されながらも物語内容と関係のないつけ足し感が拭えなかった。
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 『ミュンヘン』では再現劇は冒頭にあるが、結末はニュース映像とそれを見る人間のリアクションのみにとどめている。残りのシーンは2度のフラッシュバックで再現している。最初はアヴナーの見る悪夢として。テロリストに対する怒りを観客に共有させる有効な手法である。 ところが、最後の再現劇(テロ事件の結末パート)はなんとアヴナーと妻のセックスシーンにフラッシュバックしている。大胆な、場合によっては失笑を買いかねない冒険演出だ。 パレスチナどころかソ連や母国にまで狙われているのではと疑心暗疑に陥り憔悴したアヴナーの生態本能(?)の「生」と無惨に殺される人質やテロリストの「死」が交錯し、圧巻のクライマックスとなっている。 このシーンはもっともっと深い意味合いがあるのかもしれないが、私には解釈しきれない。でも、まあ理屈抜きに凄い演出だ。スピルバーグの演出家としての格は『シンドラー』より更に上がった。 


  リアルな設定 

 脚本はエリック・ロスが原作を元に初稿を書き、『エンジェルス・イン・アメリカ』で話題のトニー・クシュナーがリライトしている……生のセリフにこだわって撮影現場でも書いていたようだ。これはなかなか効果的だった。『プライベート・ライアン』ではどうしても芝居がかった演説セリフが目に付いたものだが、この映画では全てのセリフが自然なものだ。 ゴルダ・メイアのセリフ(これは実際のセリフだから仕方ない)やジェフリー・ラッシュのセリフがやや芝居がかってるくらい。  

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 それにしても驚きなのは、暗殺チームが誰一人として暗殺者らしい雰囲気を醸し出していない点だ。隊長たるアヴナーからして、最初の暗殺で銃を抜き損ねるは、撃つのを迷ってしまうは、で首相の護衛をしていたにしては頼りない。爆弾のエキスパート/ロベルトは見るからに理系文化系な感じ。運転のエキスパート/スティーヴは体育会系で威勢も覚悟もいいが経験の浅さがセリフの端々から出ている。会計士/ハンスはベテランの風格があるが、殺し慣れるような稼業ではない。始末人/カールは見てくれは冷徹な殺し屋そのものだが、実際はチーム内で一番穏健な常識人だ。 いくらモサドに在籍していたとは言え、彼らに重要人物暗殺の重要特命を与えるのか?という驚きが先行する。 

 確かに殺し屋然としていたり軍人の風格があれば怪しいかも知れない……そもそも殺し屋然としているという私の先入観が間違っているのか…ゴルゴ13じゃあるまいし。
 頼りげのないアヴナーのチームも段々と大胆に(けっこう行き当たりばったりだが)、冷酷に殺しを重ねるようになる。敵の復讐が始まると表情は徐々に殺気を増し、目の闇の色は濃くなってゆく。明るく素人っぽい前半との隔たりは著しい。 この「起承転結」の「転」の部分はこの映画の中でも白眉であった。 その中の女殺し屋を始末するシーンは、不気味な筒型改造銃もあいまってインパクト大。『ゴッドファーザー』的ですらある。 




  撮影、音響、俳優

 撮影のヤヌシュ・カミンスキーの仕事ぶりは完璧だ。場面場面の色つけと陰影が絶妙。特にフランスの農園、雨の暗殺、爆破するホテルなどのシーンは圧巻だ。  また、音響は『SW』シリーズで編集を担当したベン・バートが担当しているが、音を心が冷えるような銃撃や爆破の音を作っている。この2人を無視したアカデミー賞は何をやってるんだと言いたい。

 
 エリック・バナは力演。後半のパラノイアまで追い詰められる姿は鬼気迫る。件のセックスシーン見せる怯え虚ろな表情は圧巻だ。前半の大根ぽいのはそこへ持っていく布石か。 
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 暗殺チームの中ではマチュー・カソヴィッツが印象に残る。小兵で悩めるインテリというのはスピルバーグ映画で良く出てくる自己投影?のキャラクターだが、今回は闇が重すぎて救われない。駅のホームのシーンは出色であった。他の暗殺メンバーの演技も文句無し。お見事。
 
 もっとも印象に残ったのは情報提供員ルイ役のマチュー・アマルリュックとそのパパ役のミシェル・ロンズデイル。ロンズデイルは『007/ムーンレイカー』や『RONIN』で知っているが、凄味と父性(そう言えば生きているはずのアヴナーの父は登場していない)を感じさせた。 アマルリュックというフランス人俳優は知らなかったが、この映画で一番印象に残る演技だった。どこか狡猾な雰囲気を漂わせ、父を巡り嫉妬の色すら見せるが、そんな男が最後までアヴナーへの仕事を全うする皮肉。ショーウィンドウを見ながらアヴナーにキッチンの話をするところは出色だ。   
 こういった全俳優の素晴らしい演技もスピルバーグの演出あってこそ。真に力のあるディレクターだ。  
 ジェフリー・ラッシュにスター俳優のオーラが有りすぎたのは惜しいが。彼ひとりだけ時代劇を演じているように見えた……はずだったが後にインパクトを残すのは彼の濃いアクセント。やっぱ名優だわ。
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演技 ★★★★
物語 ★★★★★
映像 ★★★★★
美術 ★★★★
音楽 ★★★★★
笑笑 ★★★★★
感動 ★★★★★
興奮 ★★★★

総合 ★★★★★★★★★ 



  

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ああ、やっぱり脚本はロス下敷きのクシュナーリライトでしたか。クシュナーのクレジットが上なんで違うのかなとも思ったのですが。いやしかし、stovalさんも書いておられるように、今回の脚本は芝居くさくなかったですね。「エンジェルス・イン・アメリカ」をご覧になられるとわかりますが、クシュナーの本ってモロ理屈っぽくて芝居がかっているので心配していたんですが。共同脚本がうまく作用したようですね。
スピルバーグについて「シリアスな題材を選ぶときの非難の対象というのは、誰もが異を唱えない万国の敵であった。」というのはそのとおりですね。そういう意味でも今回はかなりの冒険だったと思います。技術的な部分も含めてオスカー候補は当然の結果ですね。
gwin
2006/02/13 18:36
「エンジェルス〜」未見なんです。録画したビデオはあるんですが・・・。「ミュンヘン」、オスカー無しなんてことはないように編集賞は獲って欲しいです。でも、未見の作品たちがそれ以上のものだとしたら、それはそれで楽しみかも。
stoval
2006/02/14 10:56

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